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- 2010-03-30 (火) 12:52
- 1000 thoughts | Illustrator
ここに一冊の本がある。本を開くと、文章とともに、一枚の見開きに異なるタッチで描かれたイラストが目に入る。文章はほとんどひらがなで書かれた、中性子というテキストアーティストによる短い小説だ。テキストアーティストとイラストレーターのコラボレーションにより完成した本『Per.mur』は、子供でも大人でもない、不思議な雰囲気で満たされている。そのユニークな作風のイラストレーションを担当した、大村タイシに話を訊いた。

自分の絵について
僕は、絵の世界に、まずデッサンの勉強をするところから入っていったんです。それは、美大に入って、いわゆるアカデミックなコースからはじめました。デッサンを勉強するということは、見えた通りをうまく描く、写実の訓練をしていたんですね。そういうことを何年間かやったんです。それは、ピアニストなら、譜面通り弾く、というのと同じで、そういった訓練をしてきました。でも、絵を描いている人は誰もそうだけれども、見ながら描いていると、見ないで描くことができなくなる。人生を通して写実でずっと行くのだったら、見えたまま描けばいいんです。でも、僕は、そういうのに自由がない、と感じるようになった。子供の頃は、見えた通りに絵が描けると誰かが褒めてくれますよね。でも、僕は、漫画家やアニメーターの方が、見ないでどんどん描いていくのにすごいと思うようになって、だんだん今の絵になってきた。つまり、「記憶で描く」っていうことなんです。対象を見ても当然いいんだけれど、見ながら描くと、線が死んでしまうんです。見て、記憶して、大体こんな感じなんだなとイメージして、手を楽にして動かす。もちろん動かしながら、少しは見るんですが、きちんと見ていない。建築をするように、立体感を頭の中に立ち上げて、それを描いていくんです。そうするといい感じに描ける。そういうことを、多くの絵描きさん、例えば、裁判の絵描きさんなんかはそうやってるんじゃないかなと思う。見ているんだけれど、頭の中で彫刻のように立ち上げてから描いていると思う。
線の多様性
僕はいつもタッチが常に変わっている。自分でも迷っているんだけれど、やはり自分の好きな服とか、自分の好きな女性とか、音楽とか、色があるように、自分の好きな線というのがある。他の人の絵を見て、ああ、この線いいなと思う。そうするとすごい羨ましく思う。小説書いている人なら、「こんな文章を書けるなんてすごい」と思うのと一緒なんですが、その線を、今回も探しました。今回の絵の中には、マジックで描いたひょろひょろとした線や、ボールペンでシャッシャって描いた線が混じっているんだけれど、あれは全部、自分の好きな線なんです。しかも、一枚の見開きのページの中に、マジックの線とボールペンの線が混じってる。僕は生業として、エディトリアル・デザインをやっているんですが、デザインをするときに、ページの見開きでどうバランスがとれているか気にします。それと同じように、見開きの中で、マジックの線とボールペンの線が響き合っているかどうかをいつも気にしているんです。だから、今回の『Per.mur』の表紙にあるとぼけた絵もそうだけれど、あれは鳥のボールペンの線に対して、マジックの線が効いていると思うんです。線の太さを一定にして整えてしまうと、一本の線で書いているのに、全体は一個として見えてこない。僕の絵は一見ばらばらな印象ですが、見開きで見ると、一個で見えてくると思うんです。
レイアウトする仕事をしていて、全体が見えるようになったんです。絵にもデザインと同じ作用があるんです。絵でもページ全体で落ち着いて見えるようになってきた。それから、だんだんと自信もついてきた。そして、どんな落書きでも、それが出来るようになってきたんです。そして、描くときは、「後ろから前に」向かって描くんです。僕は、そういう訓練をずっとしてきました。非常に感覚的なんですが。
「下手だけど、いい絵」を目指す
うまい絵描けばみんな褒めてくれる。「ああ、うまいじゃん」って。でも、僕の中では、うまい=かっこわるいんです。うまい絵というのは、描いている自分が窮屈になってしまう。ピアノやギターも、速く弾ければかっこいいかと言えば、そんなことはない。そういうレベルで語られたくないんです。人から「下手だけどいい絵描くね」って言われたい。僕みたいな人も多くいると思うんです。長くやってればそう思うようになると思うんです。
「下手な子供っぽい絵で、こんなのダメだ」って言われても、僕は構わない。わかんない人はわかんないでいいんです。批判される覚悟もしています。でも、僕は描きたいんです。
中性子の文章について
ひらがながすごくいいですね。それから、一ラインの文字数が少ないのが、すごく絵とあっていると思う。中性子の文章を読んだときに、「アルジャーノンに花束を」を思い出しました。そして、中性子の文章は、ビジュアルが思い浮かぶ文章ですね。例えば、最初の小説「パー.マー.」に登場する和菓子屋のところだけで、ずばっと絵が4つくらい描けると思う。それくらい広がりがある文章だと思う。セザンヌが顔を少し横に向ければ、また絵が描ける、だから絵は無限にできるっていうようなこと言っていたけど、それを思い出しました。また、題材に意外性があって面白かった。バスが登場したり、モスバーガーが登場したりする。ただ、挿絵作家のようなことはしたくなかったので、ある程度抽象的な絵も入れるようにしました。
今回の本『Per.mur』の想定読者
年間3万人自殺する人がいます。それは借金だったり、病気だったり、失恋だったりしますよね。僕は、特別、何かをやっている訳じゃないけれど、弱者というか、いま弱り切っている人にこの作品を捧げたいです。あまりクールになるなよって思う。僕は、雑誌の仕事しているけど、雑誌に出ている人っていわゆる勝ち組みたいなもんですよね。いまこの店で飲んでいる人もそうだけれど、7割が貧乏しているっていう現実があるのに、テレビ出ている人にはスタイリストがいて、いっつもカッコいい格好して、なんかそれはおかしいと思う。それで、ひがむなという。だから僕の今回の作品が、別に死ぬ人じゃなくてもいいし、ニートじゃなくてもいいんだけど、どこかで、これ読んでよかったなとか、この絵見てよかったなというような作品になればいいですね。
15年前、胃がんの手術をしたんです。手術は成功したんですが、その直後、体調が悪くなって、集中治療室に入ったんです。おなかの回りに鉛の腹巻きをされているような感覚がして、5分が30分に感じられるほど苦しく、本当に死ぬかと思ったんです。そのときに、自分がそれまでの経験から学んだ絵の智慧を本にして書き残したいと思ったんです。今回の本にも、その経験が活かされています。
イラストブック『Per.mur.』(5月上旬発売)
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大村タイシ個展「Per.mur.」
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