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『小さな世界を変える』| 中性子 インタビュー

「作り手の思考」に迫る《1000 thoughts》。今回は、テキスト・アーティスト=中性子の、世界初のインタビューです。アンソーテッド・ブックス第一弾『Per.mur.』の筆者である中性子は、自分の中に存在するさまざまな自分のひとつにクローズアップして書かれたものであるようだ。本が堆く積み上げられた部屋で、毎日ひっそりと「ぶん」を書く中性子。その多面的な素顔を持つ氏の素顔、そして世界観に迫ります。

今回の「Per.mur.」について説明してください。

わたしがこの文章を書いていたのは、毎朝池のまわりを散歩をした後になるんですが、前の日の夜のことを思い浮かべていたり、自分であることを意識するような時間帯なんですよ。自分というのは、いろいろな自分があると思うんです。例えば誰でもそうだと思うんですが、いくら親しい人と一緒に同じ時間を過ごしていたとしても、絶対にその中に個人的な時間というのが存在していると思うんです。それは、いまのこの瞬間にのみ存在する自分のようなものが、無数にあるということです。わかりやすい例でいえば、人と話している時の自分と、一人でいる時の自分があると思うんですけれども、わたしの場合は、もう少しバリエーションがあるという感じです。そうした自分を感じながら、今回の4篇のテキストを書いていきました。
冒頭には「パー.マー.」という、まず大村タイシとのコラボレーションのきっかけとなった文章。そこから、毎日過ごす場所としてのモスバーガー(「いらいらシガレット」)、3篇目に自分の好きな「音楽」、そして、最後に、いつも中性子のそばにいる小鳥の「ばあど」について書いています。本のページの最初の方が、より人に見てもらいたいという意識が強くて、文章も、「です・ます調」と、「だ・である調」を混在させたりしているんですが、後半になればなるほど、「だ・である調」で統一されているんです。

ひらがなを多用されていますが、その理由は?

文章を読んでもらうスピードを遅めたかったんです。例えば、すべてがひらがなの中に突如として「まごめえき」という言葉があったとしたら、何なのか最初わかりませんよね。でも、「まごめ駅」と書けば、それが駅名であることがわかる。すべての文章をひらがなで書かれると、ここは漢字なのか、どういう意味なのかっていうのを、少し考えないとわからなくなる。そうした効果を狙ったというのもあります。文章全体として、ひらがなと漢字のほどよい混合というのは、普段皆が見慣れているから、読みやすいんですけれども、今回の「Per.mur.」では逆のことをしています。
例えば、こんなこともあります。文章をパソコンで書くようになってからというもの、いつも書く時に、頭の中にキーボードが浮かぶんです。そして、アルファベットを打ち込んでいるところを想像してしまう。例えば、「わたしは」だったら「WATASHIHA」という英字を一つ一つタイピングしているところが思い浮かぶ。ローマ字が頭に浮かぶんですよ。そう思い浮かんでしまうことが最初の頃、すごく煩わしくて、なかなか文章を文章として意味を捉えることができなくて、意味を見失っちゃったことがあるんですね。つまり、何かを書きはじめたんだけれど、途中から何を書こうとしていたのかわからなくなってしまうんです。ですがそれは、より言葉の音感とか、「メタ言葉」というものに近づいていくんです。おこがましいかもしれませんが、そういう、わたしの個人的な体験を、読み手にも味わって欲しいなという思いもありました。

最初のパーマーで「おはぎ」にこだわった理由というのは何なんですか?

おはぎ、好きだからです。普段はあまり食べませんけれども。

好きなものが出てくるんですか? バスとか、鳥とか。

今回は、好きなものしか書いてはいないです。

想定読者はありますか?

敢えて言えば、本が好きで、世の中のわからないことに対する興味があって、夜更かしをするような人で、何か世の中に対して、新しいこととか、革命的なことを考えている人。

中性子さんは世界をどう捉えていますか?

わたしは、世の中っていうのは、文句はいろいろ言える世界だと思っているんですよ。誰でも政治の文句だって言えるし、音楽の文句だって言える、絵の文句だって言える。世の中にあるすべてのことに対して、あらゆる文句が言えるんですよ。だけれども、意識さえ変えれば、それがユニークなものに思えてくる。
自分の思う通りの場所で、思う通りに生きて行くっていうのは誰もが思う理想です。でもそうはいかないものです。だったら、最初からおおらかになって、いろいろな刺激を受けて、会話にしていけばいいと思うんですよね。あと、やっぱりわたしが思うのは、普通の怖さです。ちょっと飛び抜けた人がいると、あーって言うでしょう。わたしはそういう人には個性があると思うんですよ。でも、個性が人に合うかどうかにもよると思うんですけれども、ユニークさを認めていける世の中になったら面白いと思うんですね。だから、こうやって文章を書いて世に発表しているっていうのは、少しだけ世界を変えていくことに加担しているんですよ。世の中を変えるのに、自分が何かを発さないとだめなんですよ。なんか、文句言うんだったら、まず発信してみようと、わたしはどうしてもそっちの方に行くんです。もちろん、変えるとはいっても、大きなことではなくて、小さいレベルの世界ですが。例えば、この本をきっかけに、おしゃべりできる人が見つかれば、それだけで世界は変わるじゃないですか。

「2人の世界は」ですよね。

世界ってワールドじゃなくって、その人の世界。微細なその人の世界を変えていくことが、結果的に大きな世界を変えていくことに繋がると思うんです。国っていう単位がもう大き過ぎると思います。みんな国の事を考えて、投票なんてしてないんじゃないかと思う。例えば、日本が崩壊して、小さな村になったりしたら、それはそれでいいと思います。そうなったら、貿易を盛んにして暮らします。

今回のこの本では、絵ありきだったんですか?

今回は、イラストレーターの大村タイシとのコラボレーションですが、文章先行でした。ですから、最初は自由に書かせていただきました。こういうのが絵で出てきたら面白いとか想像しながら書いたり。わたしが2つくらい物語を書いた後で、大村さんのイラストが少しずつ完成していったので、残りの2篇は、その絵からインスピレーションを受けて書いているんだなと思うところもあります。

最初の本を出した感想は?

タイトルが「Per.mur.」で、「パーマネント(永遠)」と「マーマー(ひそひそ話)」を合わせたものなんです。永遠のひそひそ話っていう意味じゃないですか。それをこうやって、パブリックにできたことにとても感謝しています。ヘンリー・ダーガーみたいに、人生このまま何もしなかったら、本当の永遠のひそひそ話で終わっちゃう可能性がありますよね。ダーガーは作品数がはんぱなく多かったりして、後世に残ったけれども、大抵の人たちの試みは、そのまま無くなってしまう。だから、これからは、ひそひそ話を、大声で言う必要があるかもしれませんね。
いくら理論的に優れていて、間違いがなかったとしても、その理論が広まるかといったらそうではないんです。すごく感覚的に、みんなは物事を決めている。例えば、文章の中にある句読点の位置などで、好き嫌いを決めていたりもします。だから、こういったら変に思われるかもしれませんが、言葉偏重な感覚はわたしにはないんです。

小説だから、ストーリーテリングっていうのもあるんですか?
いらいらシガレットは、結構ストーリーテリングがありますよね。「音楽」「ばあど」はないですよね。パーマーも最初あったけれども、途中から無くなったという感じがしました。

わたしは、小説もエッセイも好きですし、哲学や思想、批評も好きなんです。花田清輝も好きです。だから、批評っぽくなっているところもあると思うんです。
文章で言えるのは、「わたし」が重要だと思うんですね。「わたし」のない文章は本当にだめなんですよね。例えば、雑誌でもよくある「原宿でいまこれが盛り上がっている」というような「わたし」のない記事、強いていえば、ニュースは、信頼度が低くなっていると思う。おれおれ詐欺の影響もあると思います。だから、その人がどういう人であるということを表明した上で、わたしが考えることが重要になってくるわけで。例えば、お花好きなAさんが「この花いい」って言うのと、お酒が好きなBさんが、「この花いい」っていうのとでは、まったく意味が違いますよね。だから、アイデンティティをはっきりとさせる必要があると思います。先ほど、おれおれ詐欺の影響があるといいましたが、いままで漠然と誰々さんと判断していたのを、もっと正確に知る必要があると思うんです。例えば、2人にしか通用しない暗号を作るとか。

冒頭に収められた「パー.マー.」では、主人公が和菓子屋で出された「おはぎ」に集中していきますよね。

わたしは何事も、集中することで、韻律が付けられるんです。例えば、好きな音楽があると、最低でも100回は聴きます。そうして、どんどんその対象となるものを意識下で変えていくんです。変えていく、というよりは変わっていくという状態ですね。それが面白いんです。一日の生活を韻律あるものにしたい場合、わたしは必ず何かに集中します。ですから、ああした描写は、わたしの中では普通のことなんです。そうした描写を、トータルの4篇で889秒で読み切れる文章として書きました。

※このインタビューは、大村タイシが行いました。

『Per.mur.』
大村タイシ インタビュー



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